季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

南部の昔っ子

  • 2022.08.05

南部の昔っ子「盗っ人神様」 [ well vol.96]

 昔々、ある所に貧乏だけど人の良い若者が居だったず。ある日のこと山からの帰り道だったず。森の中から「おぶさりてぇーだがさりてぇー」という声が聞こえたず。若者はその声がとても可愛いくてやさしげだったので、つい「おぶさりてがったらおぼされ!」と、声をかけて背中を向げだす。そしたら「ふわっ」と何物かが背中におぶさったずもな。  家に帰っておろして見だら、なんときれいなあね様人形だったず。若者は嫁っこがほ […]

  • 2022.02.10

南部の昔っ子「大力の八太夫」 [ well vol.94]

 昔々、たまげた角力の好きな南部の殿様が居だったず。殿様は力持ちの若者を集めては角力をとらせ角力とりを育てていだのだず。そしていつか江戸の角力大会で一等とらせてみたいもんだと思っていたずもな。  そんなある日、殿さまは山奥の奥にたまげだ大力の男がいるっていううわさを聞いたず。そこで早速家来を行がせたず。その家来の侍が山奥に向がったずども、行けども行けども山奥だったず。そのうち一本道に入り込んだずも […]

  • 2021.11.10

南部の昔っ子「一つ目小僧」 [ well vol.93]

 昔々あったず。ある所に、年中炭焼きしているじ様が居だったずもな。ある晩、じ様は炭焼小屋で飯食っていたず。日が落ちだら急に寒くなったすけにいろりに榾(ほた)くべてがんがと火を燃やしていだったず。したきゃガラッと戸が開いで「オラ、一つ目小僧だ、火こさあででけろ」て大きだ男が入ってきたず。そして戸端さどがっと座ったずもな。じ様は何年も炭焼きしていれば、狐だ狸が化げて逢いにくるは馴れでいたずども、一つ目 […]

  • 2021.07.20

南部の昔っ子「屁ったれ嫁っこ」 [ well vol.92]

昔々あったず。ある所にじ様とば様と息子が居だったずもな。ば様は息子の兄(あん)様に丈夫で働き者の嫁っこをもらってけだず。その嫁っこは病気持ちだというけど、気立ても良くあん様とも気が合って「姉(あね)!」と呼ばれてめんこがられて居だったず。  そんあある日の事だず。じ様は裏山さたき木取りに、あん様は家の側の畑でごぼう堀りしていたずもな。ば様は炉端で縄なっていで、嫁っこは板掃きしていだず。ば様は嫁っこ […]

  • 2021.02.10

南部の昔っ子「福の神さま」 [ well vol.90]

 昔々あったず。ある村にあまりに貧乏で誰からも見向きされないば様と男わらしこが居だったず。  ある日ば様が田の近くで芹を採っていると、見知らぬ坊様が声かけたず。「あの、あだごの山寺さどう行ったらいがべ、道に迷っていました」と。ば様は「それは難儀していましたな。大きだ道まで行きますべ」と、さっさと歩き出したず。だいぶ歩いた所でば様は「お坊様、この道をまっすぐ行って下され。突き当りがあだごの山寺です」 […]

  • 2020.11.10

南部の昔っ子「米子と糠子」 [ well vol.89]

 昔々あったず。ある所に、米子と糠子という姉妹が住んでいたずもな。姉の米子は、からやぎで何んも働かねで一日中家でごろごろしていだもんだず。妹の糠子は、働き者で朝から晩まで飯炊き、洗濯、畑仕事と、たまげだ働ぐ娘だったず。  ある日、山向こうのばあさんの家で「手伝いに来てけろ」と、いうので米子と糠子は手伝いに行ったず。したども米子は、ばあさんの家さ来ても、何んも働がねで遊んでばりいだったず。一方糠子は […]

  • 2020.08.01

南部の昔っ子「縄なり長兵ヱ」 [ well vol.88]

 昔々、縄なり長兵エという縄なりの大好きな男が居だったず。長兵エは貧乏で藁がなくなると、田んぼや百姓やのげぐり(まわり)を廻って藁を 拾いあさっていだず。したすけ、村の人は蛇だの紐を投げて「ほら!縄なり長兵エ、藁だ、拾え」って馬鹿にしていたもんだず。  ある日、長兵エは長者様の藁塚(にお)造りの仕事に行ったず。長兵エの仕事は田んぼから藁を運んだり、におを組む人に藁束を渡すことだったず。藁は長者の広 […]

  • 2020.05.08

南部の昔っ子「げろげの娘っこ」 [ well vol.87]

 昔々、山奥の一軒家に、じじとばばが住んでいだったず。 ある晩のこと、この辺りでは見た事もねえきれいな娘っこが「道に迷ったすけ泊めでけろ」ってじじとばばの家さ来たずおな。  じじとばばは「困った時はお互い様だ」ってその娘っこを泊めでけだず。ところが、その娘っこはそれから何日たってもえって家がら出でいかなかったず。じじとばばは子どもがながったすけに「あね」と呼んで家さ置いたず。あねはたまげだ働き者で […]

  • 2020.02.10

南部の昔っ子「でったらぼっち」 [ well vol.86]

 昔々、大昔のことだったず。ある所にたまげだでったらだ山があったずもな。その山がら朝日が出ると、神々しくて村の人は朝日岳って呼んで、毎朝手を叩いて拝んでいだもんだず。  ところでその朝日岳には、でったらだ大ちから持ちの太郎という主が住んでいだったず。太郎は自分の山を村の人が毎朝拝んでくれることが嬉しくて、お返しに風除けの山を造ってやることにしたず。なにせ、この辺りは北東からの風が強くて、夏は寒くて […]

  • 2019.11.10

南部の昔っ子「袋に入れられた狐っこ」 [ well vol.85]

 昔々、ある山寺に和尚さんと小坊主が居だったずもな。ある日、和尚さんが里に法事があって出掛けたず。法事も無事終わって、和尚さんはご馳走の折っこを持って山の寺さ向かって山道を来たず。帰る途中には坂があって、登り切った平らな所で和尚さんはいつも一休みするのだず。法事では酒こもご馳走になっているので、つい眠ってしまう事もあるのだず。そんな時には必ずもらって来たご馳走は狐に盗られでなくなっているのだず。そ […]

  • 2019.07.10

南部の昔っ子「田螺と野老の話っこ」 [ well vol.84]

 昔々あったず。ある所に田螺と野老が居だったずもな。  ある春の天気の良い日に、田螺は外の世の中が見たいもんだと、田んぼの水の中から這い上がって、のそのそと道に出てきたず。同じ日に野老も外の世の中が見たいもんだと、畑の土の中から這い上がって、のこのこと道に出て来たず。  さて、その道は一本道だったずもな。右から来た田螺と、左から来た野老が道の真ん中でばったりと出合ったず。「野老どの、野老どの、どち […]

  • 2019.05.10

南部の昔っ子「鳥こ呑み爺」 [ well vol.83]

 昔々あったず。ある所に人の良いじ様とば様があったず。ある日。じ様は畑さそば刈に行ったず。昼間になったすけ、じ様はば様が作ってくれたにぎりまんまを食っていたずもな。  そしたら、鎌の柄に見だ事もないようなきれいなきれいな鳥こが止まっていだず。あまりにきれいな鳥こだったすけに、じ様はじっと見とれてしまったず。そして「ホイ、ホイ、おめも腹へったが?一緒にまんま食うが?」って指の先さ、まま粒つけで静かに […]