季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

南部の昔っ子「縄なり長兵ヱ」 [ well vol.88]

南部の昔っ子「縄なり長兵ヱ」 久慈瑛子作

 昔々、縄なり長兵エという縄なりの大好きな男が居だったず。長兵エは貧乏で藁がなくなると、田んぼや百姓やのげぐり(まわり)を廻って藁を
拾いあさっていだず。したすけ、村の人は蛇だの紐を投げて「ほら!縄なり長兵エ、藁だ、拾え」って馬鹿にしていたもんだず。

 ある日、長兵エは長者様の藁塚(にお)造りの仕事に行ったず。長兵エの仕事は田んぼから藁を運んだり、におを組む人に藁束を渡すことだったず。藁は長者の広い庭いっぱいにあって、その新藁の匂いのいいごと。長兵エは宝の山にいるようで嬉しくて嬉しくてエッホエッホと、にお造りの人に藁束を投げ渡してやったず。

 さて、長兵エは帰りの仕上に庭掃きをしながら散らがった藁を掻き集めていたず。そしたらそこさ長者様が来て「これこれ何してる?」って言われたず。「はぁ、明日のにおにする藁を拾っていますだ。」と長兵エが答えたず。そしたら長者様が「なあに、そったら藁くず、におには使わね。ほしがったら家さ持っていげ」と言ったず。

 さあ、長兵エは藁をくれると云ったので喜んでしまって、「長者様それ本当すか?」と聞き直したず。「んだ」と言われたら長兵エはもう、有頂天になってしまって、一人でにぺらぺらと、しゃべり始めたず。

 「実はおら、縄なり長兵エって縄なりが大好きな男でがす。親が死ぬ時「藁一本、大事にするんだょ」と言(へ)ったけど、藁一本では縄はなれねえ。したすけ俺は毎日眠る前に『この藁こ、明日は二本になれ、あさってはその倍の四本になれ、次の日はその倍の八本になれ』と毎晩夢みてえなまじないっこ言(へ)ってるんだしたすけ、長者様今日、この藁っこくれるんなら今日は一本だけくだせ。明日はその倍の二本、次の日はその倍の四本、八本とくだされ。どうか俺の夢っこ叶えさせてくだされ」と長兵エは一気に喋って、土下座をしたず。そしたら長者様は「おもしろい奴だな。今日はそんな藁くずでなく、良い藁一本持っていげ。明日は二本あさっては四本と倍々と一ヶ月けでみるべ。お安いごった。」と言(へ)たず。

 さあさあ長兵エは次の日から毎日、庭掃除した後長者様から二本、四本、八本と藁をもらって来たず。そして七日たったずもな。長兵エはなった縄を持って長者の所へ行ったず。そして「長者様、ありがとがした。藁をくれるのは今日で終りにして下され。」って言ったず。長者様は「なんど!どやしたもんだ?」って聞いだず。

 そしたら長兵エは「はぁ、俺のまじないっこの日にちは長くて六日ぐらいのもので、後は藁の数も数えれない頭なしで。それなのに、今日で七日目。藁の数も数えれませんだ。長者様、ありがとがした。俺の夢は十分に叶えてもらいやんした。これは上等の縄でなった縄でがす。どうか使って下され」と長兵エは縄を置いて帰って来だず。

 長者様は本当はちゃんと計算していたず。長兵エに一本の藁を倍々と一ヶ月やれば、一億本にもなるぞ、こりゃやっかいだ。と思っていたず。したども長兵エの縄を見だらびっくりしてしまったず。まるでそうめんみたいに細くて目が揃ってきれいな仕上がりだったず。それに長兵エの欲のない正直さが好きになってしまったず。

 さあ、それから長者様は長兵エに縄なりの仕事を与えたず。長兵エも、今は藁の心配もなく長者様の専属の縄なりとなり、朝から晩までジョリジョリと縄をなっていたず。そして又、嫁こももらって幸せにくらしたず。どっとはれ