昔々、たまげた角力の好きな南部の殿様が居だったず。殿様は力持ちの若者を集めては角力をとらせ角力とりを育てていだのだず。そしていつか江戸の角力大会で一等とらせてみたいもんだと思っていたずもな。
そんなある日、殿さまは山奥の奥にたまげだ大力の男がいるっていううわさを聞いたず。そこで早速家来を行がせたず。その家来の侍が山奥に向がったずども、行けども行けども山奥だったず。そのうち一本道に入り込んだずもな。その一本道は人がすれ違う事が出来ないほど細く、侍は誰も向こうから人が来ねばいいなあと思っていだず。
そしたらなんと牛方とべこが道さ、はばがって来るのが見えだず。
「どうしたらいがべ?」と侍は止まっていだら、近くに来たその牛方は米俵二俵を背負い、べこは四俵の米俵を積んでいだったず。侍は「これ、牛方よけろ!」と言おうとしたら、その牛方は脇を見て、道端のせまい空地を見つけひょいと降りると、なんとべこの前足と後足を二本ずつ両手でつかむと「よいしょ」と荷物がらみ牛を持ち上げると侍に道をゆずったずもな。
侍はその大力にたまげでしまったず。そしてこの男こそ「俺が捜している大力持ちの男だ」と思い名前を聞くと「八太夫だ」と答えたず。「角力とりにならねが?」と聞いたら「なりたい」と云ったず。
そこで侍は牛方の仕事が終わると八太夫と一緒に殿様の待つお城に向がったず。殿様は背が高く体のガッチリした八太夫を一目見て大喜び「これ、八太夫あの石灯籠を持ち上げてみよ」と云ったず。そこで八太夫は庭の石灯籠を軽々と持ち上げたずもな。これには殿様もびっくりし、すぐおかかえ力士にしたのだず。それから八太夫は城の力仕事や大石を持ち上げては力をつけ、角力のけいこに励んだずもな。
次の年、殿様は八太夫に「南部山」と、しこなをつけて江戸の角力大会につれで行ったず。したら、なんとなんと次々に相手を倒し、去年優勝した備前山と決勝でたたかう事になったず。さあ、備前山と南部山は押したり引いたり中々勝負がつかなっかったずども、足ぱねをかけた南部山がついに備前山を倒して優勝したず。
行司が「今の勝ち手は何んだ?」と聞いだず。南部山は「はい、南部角力の手斧割という手でがす」と云って土俵おりたず。こうして南部山は日本一の角力とりとなり金一封やらほうびやらいっぱいもらって喜んだず。殿様も「どんなもんだい」と鼻高々と帰って来たず。
そんな昔のこともあり南部地方では大関鏡岩とか横綱鏡里が出るようになったず。
どっとはれ