季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

南部の昔っ子「げろげの娘っこ」 [ well vol.87]

南部の昔っ子「でったらぼっち」 久慈瑛子作

 昔々、山奥の一軒家に、じじとばばが住んでいだったず。
ある晩のこと、この辺りでは見た事もねえきれいな娘っこが「道に迷ったすけ泊めでけろ」ってじじとばばの家さ来たずおな。

 じじとばばは「困った時はお互い様だ」ってその娘っこを泊めでけだず。ところが、その娘っこはそれから何日たってもえって家がら出でいかなかったず。じじとばばは子どもがながったすけに「あね」と呼んで家さ置いたず。あねはたまげだ働き者でじじとばばの面倒を見てくれたず。特にまま支度や洗濯、板ふきと水仕事は大好きだったず。

 こうしているうちに月日が過ぎだずもな。そのうちきれいで働き者のあねの噂が広がって、とうとうあっちの村からこっちの村から「あね様を嫁っこにほしい」と、嫁もらいがくるようになったず。じじとばばは喜んで「あね、あね、お前嫁っこに行くんだ」と云っても、このあねは、えって「うん」と云わながったず。「おら、嫁っこに行きたくない。おら、じじとばばの側が良い、ここさ置いでけろ」って、嫁もらいを皆断ってしまったずもな。じじとばばは「いがべ、いがべ、ここに居ろ」って言ったものの「このあねには、嫁こに行きたくない事情があるのだべ」と、今まで通りに暮らしていたず。

 したども、じじとばばには、この頃少し心配事があったず。なんでも夜中にあねの寝床がら「げろげ、げろげ」と鳴くような、いびきのような声がするのだず。じじとばばは風邪でも引いて咳でもしているのだべ」と思っていたずとも、どうも咳でもなさそうだしと頭を傾げていだったず。それに不思議とあねの寝床から「げろげ、げろげ」と声が聞こえた次の日は、決まって雨が降るのだず。

 じじとばばは相談して、ある夜ぐっすり眠っているあねの寝床をこっそりと見にいったず。そしてあねの布団を足元から静がっこに静がっこに剥いでみたず。そしたらなんとびっくり、人間の足ではなく水掻きのある細い足が二本、そして二本の手が見えたのだず。

 さて、次の朝、あねはじじとばばの前で「実は、おらはこの家の前の池で生まれて育ったげろげ(蛙)だ。おら、小さくておたまじゃくしの頃、日照りでおたまじゃくしが皆死にかけた時、じじとばばはせっせと水を掛げておらどば助けてくれたんだ。したすけ、大人になったらその恩を返そうとじじとばばの側に居させてもらった」と涙こ流しながら言ったず。そして「正体見られたからにはここに居られない。じじ、ばば、達者でいでけろ」って家を出て行ってしまったず。じじとばばも涙こ流して引き止めだずともどうにもならながったず。

 したども、あんな小ちゃなおたまじゃくしにも恩を返そうという魂があるとはとびっくりし、「赤子のたまし死ぬまで」とは、このことだべがと思ったず。どっとはれ