季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

南部の昔っ子「屁ったれ嫁っこ」 [ well vol.92]

南部の昔っ子「屁ったれ嫁っこ」 久慈瑛子作

昔々あったず。ある所にじ様とば様と息子が居だったずもな。ば様は息子の兄(あん)様に丈夫で働き者の嫁っこをもらってけだず。その嫁っこは病気持ちだというけど、気立ても良くあん様とも気が合って「姉(あね)!」と呼ばれてめんこがられて居だったず。

 そんあある日の事だず。じ様は裏山さたき木取りに、あん様は家の側の畑でごぼう堀りしていたずもな。ば様は炉端で縄なっていで、嫁っこは板掃きしていだず。ば様は嫁っこの板を拭くへっぴり腰を見て「姉(あね)や、姉(あね)や、板拭きずものは、ただ板をなでるのでなく、力を入れて拭くものだ」と云ったず。嫁っこは「あい」と云って、尻はっちゃげて腹さ力入れて、左から右へ、右から左へと腕動かして板拭きしたず。そしたらなんと、嫁っこの尻(けつ)から「ボーヘー」と大きな屁っこが出てしまったず。その屁っこ風の強いごと。嫁っこが「ば様!炉ぶちに掴まってけろ」と叫んだずども聞こえながったす。

 その屁っこ風をまともに受けだば様は藁縄と一緒に「ぶんぐ」と馬屋の前まで飛ばされたず。餌食っていた馬もびっくりして「ヒー」と鳴いて飼い葉桶をひっくり返したず。その屁っこの余り風が畑でごぼうを抜いでいたあん様にも届いだず。あん様は、ごぼうをつかんだまま「屁くそかずら」のからまっていた垣根まで飛ばされたず。屁くそかずらは臭かったず。裏山で木に登って枯枝を切っていたじ様は、ただならぬ屁っこの大きな音にびっくりして、自分の登っていた足元の枝を切ってしまったず。それでじ様は「ぼたっ」と木の下の草むらさ落ちたずもな。したども働き者のじ様は、へあまって草刈ったず(臭かったず)。

 そのあと、「何事だべ?」とじ様もあん様も家さ戻ったず。したきゃ嫁っこが、ば様の腰をなでながら「「ば様、許してけろ。おらの隠していだ病気(やまい)とはこのことだす。おら生れ家さ戻りますすけ、許してけろ」って泣いだず。そしたらば、ば様が「姉(あね)、姉(あね)、おらがもらって来た嫁っこだ。戻ることねえ」。「病人(やめと)と屁ったれとおどげは誰にもどこにでもあるもんだ」と嫁っこをなぐさめて引き止めだず。それ聞いで、嫁っこもあん様も喜んだず。「したども姉(あね)や、今度からは家の外で屁っこたれでけろ。おら、二度と飛ばされねえすけに」と、云ったず。

 じ様も「おらも二度と木から落ちたくねえ」と云って皆を笑わせたず。まんず、まんず、これで笑い話の昔っこ、どっとはれ。

屁くそかずら…白い花で実は熟すと黄色。全体に臭気がある
へあまって…這いつくばって
おどげ…おどがい、あご