季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

南部の昔っ子「一つ目小僧」 [ well vol.93]

南部の昔っ子「一つ目小僧」 久慈瑛子作

 昔々あったず。ある所に、年中炭焼きしているじ様が居だったずもな。ある晩、じ様は炭焼小屋で飯食っていたず。日が落ちだら急に寒くなったすけにいろりに榾(ほた)くべてがんがと火を燃やしていだったず。したきゃガラッと戸が開いで「オラ、一つ目小僧だ、火こさあででけろ」て大きだ男が入ってきたず。そして戸端さどがっと座ったずもな。じ様は何年も炭焼きしていれば、狐だ狸が化げて逢いにくるは馴れでいたずども、一つ目小僧の化物は初めてだったず。

 「わあ、お前(め)誰(で)で?」って叫んでしまったず。そしたら一つ目小僧は「オラ、まなぐ一つしかねえども人の心を先(さき)わかりして、しゃべる化物だ」ったず。じ様は「この化物、狐だべが?狸だべが?」と思ったず。したきゃ、一つ目小僧が、「ほら、じ様『この化物狐だべが?狸だべが』と思ったべ」と言ったず。「ありゃ、よく解ったな」とじ様が思ったきゃ、「ありゃ、よく解ったな」と、一つ目小僧が言ったず。「へだら何(な)んも考えない方がええな」とじ様が思ったら「へだら何(な)んも考えない方がええな」って一つ目小僧が言ったず。そして「なあに、じ様お前(め)を取って食う訳でねえ。ただ、火こさあだって一晩話っこして寝でだけだ」と言ったず。

 じ様は「誰(だ)れ、お前(め)みてえな化物と寝られるが!」と思ったず。したきゃ一つ目小僧も「誰(だ)れ、お前(め)みてえな化物と寝られるが!」と言ったず。じ様は余りにも自分が思っていることを一つ目小僧に言われで、困ってしまったずもな。

 そこで、じ様は思っていることを先にしゃべることにしたず。「まいった、まいった。一つ目小僧殿好きなようにしてけろ」と言いながら、とっさにがんがと燃えている榾木の尻を思いっきり足で蹴飛ばしたず。そしたら真っ赤に燃えている榾木の先が一つ目小僧のほっ腹にバーンと当だったず。「あっち、あっち」一つ目小僧は思いもよらぬ火柱に当だってひっくり返ってしまったず。そして一つ目小僧は「あっちち、あっちち、考えなしの無鉄砲ほどおっかねえものはねえ、あぁ、おっかね、おっかね」と逃げで行ってしまったずもな。

 次の火、炭焼きじ様の小屋の前にはむじなの足跡が点々とついていだったず。
どっとはれ