季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

南部の昔っ子「福の神さま」 [ well vol.90]

南部の昔っ子「福の神さま」 久慈瑛子作

 昔々あったず。ある村にあまりに貧乏で誰からも見向きされないば様と男わらしこが居だったず。

 ある日ば様が田の近くで芹を採っていると、見知らぬ坊様が声かけたず。「あの、あだごの山寺さどう行ったらいがべ、道に迷っていました」と。ば様は「それは難儀していましたな。大きだ道まで行きますべ」と、さっさと歩き出したず。だいぶ歩いた所でば様は「お坊様、この道をまっすぐ行って下され。突き当りがあだごの山寺です」ったず。そこで坊様は「これはどうも。へっちょはがせました。これもらって下され」と紙包こをば様に渡したず。ば様は家さ帰って紙包みこ開げてみたず。そしたらなんと銭こ入っていたずもな。ば様は嬉しくて男わらしこに「好きだ饅頭買ってこい」と小銭こ渡したず。さぁ、男わらしこは喜んで店屋さ行って饅頭二つ買ったず。帰る途中、なんとお坊様が道端に倒れでいるのを見だず。「お坊様どうした?」って声をかけると「腹へって、腹減って動げね。もう死にそうだ、何か食い物けでくだされ」ったず。さあ、男わらしこは困ったずもな。お坊様に饅頭ければ、ばばとおらの分なくなるし、お坊様に饅頭けねば死んでしまうし、「どうしたらいがべ」と泣きたくなってきたず。したども「お坊様ば死なせられね」と、自分の分の饅頭を食べさせたず。そしたらお坊様は急に元気になって歩き出したず。「あぁ、いいごとした」と男わらしこは家さ帰ってば様に饅頭一つ渡したず。ば様は「お前の饅頭は?」と聞いたずもな。「うん、おら、待ちきれずに途中で食ってきた」といいながらポロっと涙ここぼしたず。それ見たば様は訳聞いたずもな。「うん、お坊様が死にそうだからおらの分けだ」ったず。それ聞いだば様は「お前はなんと心持ちの優しいわらしこだ。旨いものを分けで食えばもっと旨くなるもんだ」と云って一つの饅頭を分けで二人でうめぇ、うめぇと食ったず。

 その晩の事だず。ば様は夢みだずもな。家の中の柱が「ビシッビシッ」と音立てて鳴り出したず。ば様「なんでおらいの貧乏神様、怒っていだべ」と思っていだら、その貧乏神様は音を立てながら戸口から外さ出て行ったず。それと入れ違いに今度は外で鉦や太鼓の音して、ば様の家の前に止まったず。「何事だべ?」と思っていだら、あの道を聞いだお坊様が米俵を担いでニコニコと戸口さ立っていたず。そして「めでたや、めでたや」と米俵をころころと家の中さ転がしてよごしたず。そしてまた、賑やかにして別の家さ行ったず。

 さぁ、朝になったら男わらしこが「ばばぁ、饅頭けだお坊様がおら家さ泊った夢見だよ。どごに居だ?」って捜したず。それを見て、ば様も夕べの夢を思い出したずもな。「そうだ、おらもお坊様から米俵もらった夢を見だ」と。「不思議だなあ、二人とも同じ夢みせるなんてこりゃ正夢かもしれねぇ」と、ば様も米俵を探したず。でもどこにもお坊様も米俵もながったず。したどもば様は喜んだずもな。あのお坊様は福の神さまで、おら家の頑固な貧乏神を追い出してくれたんだと思ったず。

 それからずもの二人の暮らし向きは少しずつ良くなり、男わらしこが大きくなるにつれてだんだん良くなったず。どっとはれ