季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

食育エッセイ40「食から元気なからだと豊かな心を」

食育エッセイ 食から元気なからだと豊かな心を 命をつなぐためにだれかが台所にたち、家族のために、自分のために音や匂いを出しながら奮闘する

園内研修の時間、「キッチン」という言葉を何度か耳にしたので「え~、台所じゃないの?」と口をはさむと、「ジュンコ先生!今の時代、子どもたちはキッチンっていうんですよ。そして居間じゃなくってリビング!おままごとあそびで『リビングはここね。』なんて聞こえてくるんです。」という先生たち。へぇ~、キッチンか…。

台所といってすぐに思い浮かぶのは、私の場合はなぜか「ねずみ」…。こんなこと思い出すのは私だけかなと心配になり友人に聞いてみると、「いたいた、ウチにもいたよ。」という返事が返ってきて妙にホッとしながらも、今年の干支だからこそ話題にだせるものの、子どもにとってはちょっと怖い場所でもあったような昭和の台所。ねずみ君たちがカサカサと走り回る音が屋根裏から、流しの下から聞こえてくると、「いる!」とドキドキした子ども時代。
祖母がお米をとぐ音が聞こえたり、ボールの中に小麦粉を入れて、ひっつみを作るお手伝いをした時のあの手のネバネバ感。アルミのお弁当箱が家族分五つ並んだ薄緑のテーブルの色。鍵っ子だった私たち姉妹にとっては、台所のテーブルの上にあったおやつが楽しみだった小学生時代。昭和の台所の風景が家族の歴史のように思い起こされます。

十五歳の春に上京し自由学園に通った私にとっては、自由学園の台所も大切な場所に。女子部六百人分の昼ご飯を毎週作る勉強がある自由学園。
台所には大きな炊飯釜が三つもあり、慣れない手つきで薪でご飯を炊くことに必死になったことや、段ボール箱いっぱいのキュウリの輪切りをした時の、あのトントントントンというまな板の音が永遠に聞こえたり、生まれて初めて魚をさばいた時のドキドキ感、私の料理の全ては自由学園の経験に寄るところが多いのですが、思い出の全てが音だったり、匂いだったり、感触だったりと、五感を通していることに気付きます。
平成の始まりとほぼ同時期に実家を改築、台所も対面式に。実家に帰るたびに得意のビーフンを作ってくれた母も次第に年を重ね、今度は私がその台所に立つことが多くなった平成から令和時代。
新しい時代になっても台所に立つことは変わらず、命をつなぐためにだれかが台所にたち、家族のために、自分のために音や匂いを出しながら奮闘する台所。

子(ねずみ)は大黒天様を救ったという神話にちなみ、食物や財福の神様である大黒天の神使とされているらしく衣食住の幸せをももたらす動物とか。ねずみが走る昭和の台所はとっても素敵な場所だったんだ!と改めて感じながら新しい年を迎えたジュンコ先生。
さあ、新しい年もウエルと共に、食を楽しむ一人でありたいと、素敵なお店に出会い、食材に出会い、花咲く春が待ち遠しいジュンコ先生です。

– 書き手- 千葉幼稚園 園長 岡本 潤子