季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

南部の昔っ子「でったらぼっち」 [ well vol.86]

南部の昔っ子「でったらぼっち」 久慈瑛子作

 昔々、大昔のことだったず。ある所にたまげだでったらだ山があったずもな。その山がら朝日が出ると、神々しくて村の人は朝日岳って呼んで、毎朝手を叩いて拝んでいだもんだず。

 ところでその朝日岳には、でったらだ大ちから持ちの太郎という主が住んでいだったず。太郎は自分の山を村の人が毎朝拝んでくれることが嬉しくて、お返しに風除けの山を造ってやることにしたず。なにせ、この辺りは北東からの風が強くて、夏は寒くて作物はとれず、冷害(けかじ)に苦しんでいだったのだず。そこで太郎は早速山の半分に縄をかけて「よいしょっ」と背負ったず。そして海の方さ向かってのっそのっそと歩き出したずもな。

 そして海の見える丘の上に「どっこいしょっ」と自分の山を置いだず。それはそれはでったらだ山の壁になったず。太郎は「これだば強い海風だの海霧を止めでくれるべ」と安心して戻ってきたず。帰る途中にも太郎が休んだり、土をこぼした所には山が出来ていて「この山こも風除けになるべ」と喜んで帰ってきたず。

 さて、次の日の朝、村の人が朝日岳を拝もうとしたら、何と山の半分が「がくん」となくなっていだず。「どやしたべ?」と見でいたら、何とでったらぼっちの太郎が削りとられた山の地均しをしているのが朝日に照らされて影絵のように見えたず。「あっ、山の主のでったらぼっちだ、太郎だ」と、村の人が叫んだず。

 次に太郎は種蒔きをしたずもな。そしたら何と不思議なことに蒔いた側から次々と白い小さな花が咲いたず。みるみるうちに平らな畑は真っ白な花畑になったのだず。それはそばの花だったず。

 又、次の日の朝、昨日の花畑は一夜にしてそばの実がびっしりなっていたず。そのそばを太郎はなんと、大きだしゃくしでもって刈っていだったず。刈り終わると太郎は村の人に「来い、来い」と手招きしたず。村の人はおっかなびっくりで畑に行ってみだら太郎は居ないでそばの実がびっしり入った俵が置がれてあったず。

 それからずもの太郎は影絵となって畑に出ることはなかったず。村の人達も太郎に感謝しながら田畑を耕し、立派な社を建てて太郎を奉ったず。そしてそばが出来るとそば膳を上げて皆で酒盛りしたもんだず。どっとはれ