季刊[はちのへ中心蔵ウェル]

食育エッセイ38「食から元気なからだと豊かな心を」

食べることにより、何かに気づいていくことが、自分を大事に、人を大事にできる根っこのような気もします。

あっ、聞こえた! 今年も聞こえた!「♪カッコー♪カッコー」早朝の園庭から美しく聞こえてきた郭公の声。静かな園庭の木々に、音符が踊るように美しく響き渡るその声に、しばし聞きほれてしまったジュンコ先生。
田向という地名のとおり、春には蝶が、夏にはカエルが、秋にはコオロギやバッタ、トンボが飛び回り、戸外へ出ると子どもたちが歓声をあげて自然の恩恵と戯れる時間が、当たり前のようにあった時代は過去のことに。いつの間にか、子どもたちの友だちとなる小動物が消え失せてしまい、この状況をなんとかしなければと真剣に考えていた時だったので、夏の訪れを告げる郭公の声に少しほっとした私。
春夏秋冬と季節が当たり前にやってきて、季節を感じる動植物が、幼い子どもたちの感性を育み、知性の芽を授けてくれたおかげで、大人が何もしなくても子どもたちに必要な力が身についた時代が終わり、周囲を見渡すと、田んぼも原っぱもなくなりつつある今。
新しい時代は「自然」「春夏秋冬」がキーワードとなり、子どもたちが良き人として生きることができるように、日本人としての感性を育むことこそが大事になるはず!と未来予測しているジュンコ先生。

そんなことを考えながら夕食準備のために冷蔵庫を開けると、目の前には旬の野菜や大大大好きなホヤが!
現代においては、「自然」や「春夏秋冬」を最も感じることができる場所は食の現場かもしれません。今年は八百屋さんの店先に、ふきのとう、タラの芽、コゴミ、コシアブラと山菜が豊富で、大好きなシドケは毎日のように食べたくらい、たっぷりいただき大満足の春でした。
先日、お料理屋さんに伺う機会があった時にも、大将の「はしりですから。」という言葉が心に響いたように、時季に先駆けて出てくる農作物の美味しさに、何とも言えない幸せを感じたように思います。子どもの時分にはわからなかった苦みが大人の味として身体に季節を運び、口の中いっぱいに広がる磯の香に恵みを感じ、食べることにより、何かに気づいていくことが、自分を大事に、人を大事にできる根っこのような気もします。

甘い、甘いトウモロコシの天ぷらが待ち遠しい夏。「待ち焦がれる」という言葉も好きな言葉で、なんだかそわそわしてしまうこの季節。日本酒のラベルも夏色に。冷蔵庫から出てきた一升瓶からしたたり落ちる水滴に、「もう一杯!」と杯を傾ける愉快な夏になるように。 さぁ、ウエルの出番です!

– 書き手- 千葉幼稚園 園長 岡本 潤子